ふたわ✿産婦人科

千葉県船橋市にある病院の産婦人科。産婦人科医・看護師・助産師によるブログ。現在、分娩休止中ですが再開予定のため、医療・保健活動は継続しています。このブログでは、産婦人科にまつわることなら病気のことだけでなく、他人には聞きづらいこと、ちょっとした疑問にお答えしていきます。個人的な質問にはお答えできません。

夏を楽しい思い出に~女性の心得1.妊婦編~

 連日の猛暑日、皆様いかがお過ごしですか?もう夏の予定は立っていますか?

 海・山・プール・お祭り・旅行・・・

ちょっと長めの休みを取って、いろいろ計画を立てている方も多いと思います。

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1年で一番ワクワクする季節である一方、日常から離れ、緊張が取れて、いろいろなトラブルが起きる季節でもあります。

 

今回は様々なライフサイクルの女性に向けて、「楽しい夏を悲しい思い出にしない為に」シリーズでご紹介しようと思います。

 まずは、妊婦編

 マタニティサマー       

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人生の中で「マタニティーサマー」はそう多くない。

楽しい夏をおなかの赤ちゃんと共に過ごしたいと思っている方もいらっしゃいますよね。

日本ではマタ旅(=マタニティ旅行)ブームも起きています。

 

その楽しい旅行計画に水を差すようですが、その計画ちょっと待ったーー!!

と言いたいのが産婦人科スタッフの本音です。

 

夏に限らず忘れてはならないのが、

「妊娠期間は人生の中ではハイリスクな時期」

だということ。

 

「母子共に無事に出産」が当たり前のこの時代ですが、

「切迫流早産」「破水」「妊娠高血圧症候群」etc…誰にでも起こりうる急変です。

 

もちろん、なんともなかった。という妊婦さんもいます。

以前、妊婦健診で「グアム旅行楽しんできました」と笑顔の報告を受けて目が点になったこともありました。

 

ですが“何もなかった”は結果論。ムリな遠出はお勧めできません。

 

少し怖い話・・・       

可愛いネズミさんのいる某テーマパークのお話…

千葉県のある病院では、某テーマパークとその周辺施設から救急受診した妊婦さんは4年間で129名。約63%が切迫流産・切迫早産と診断。約15%が入院し、そのまま分娩に至った方もいました。中には、常位胎盤早期剥離で超緊急の帝王切開となった症例もあったそうです。

 

夢の国の魔法ではどうにもならないことが現実にあるのです。

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 ※常位胎盤早期剥離とは、赤ちゃんが生まれる前に、胎盤が子宮からはがれてしまうこと。胎盤がはがれると、赤ちゃんへの酸素や栄養の供給がストップし、危険な状態になってしまいます。

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特に海外での体調悪化は怖いです。

                    

実際にあった事例をご紹介します。

妊婦さん:カナダ在住の妊娠6カ月

旅行先:ハワイ・マウイ島

経過:旅行2日目に破水、ホノルルの大病院に空輸搬送。6週間の安静の後、正期産より9週早く出産。赤ちゃんはNICUで2か月にわたるケアを受ける。

医療費(空輸搬送含む):95万ドル(日本円にして約1億1400万円)。

その他費用:赤ちゃんが退院するまでのハワイ滞在費用

 

この事例はカナダ在住の妊婦さんですが、日本人が同じようにハワイで出産しても高額請求される可能性があると考えてください。お金のことを考えただけでも怖いですが、知らない土地での出産・入院は精神的にも負担が大きいですよね。

 

 

 また、自分では気を付けていても、イベントなどの大勢が集まる中で、思わぬ事故に巻き込まれたら?

 誰が、自分とおなかの赤ちゃんを助けてくれるでしょうか?

 

 

楽しいマタニティーサマーを送るために・・・

 

心得ポイント!!        

①事前にかかりつけの産婦人科医に相談を。

 

②旅行先で急変した時は多額の医療費や宿泊費がかかる可能性があることを覚悟して行く。

 

③家族でしっかりと話し合って、ムリのない計画をたてる。上のお子さんがいる場合は、周りの力も借りましょう。

 

④人ごみでは手洗い・マスクで感染予防を。

 

母子手帳や保険証を忘れずに。

 

血栓予防にこまめな水分補給を。

  妊婦さんは血栓(=血の塊)ができやすくなっています。夏で汗もかきますし、体の水分が不足するとさらに血液が滞り、血栓ができやすくなっています。

 

⑦バッグに「マタニティーマーク」を。

(賛否両論ありますが、緊急時には目印になります)

 

 怖い話もしましたが、楽しい夏を過ごすためにもおなかの赤ちゃんと自分の身体を1番に考えてくださいね。

 

 

参考文献

今野秀洋ほか:医学の窓 妊娠中の旅行に関する危険性について 東京近郊にある巨大テーマパークからの産科緊急受診に関する検討より、千葉県医師会雑誌、6巻6号、p303-308、2014.06